
U子さんの町にはキル兄にゃが住んでいる。キル兄にゃというのはあだ名である。なぜそう呼ばれているかと言えば、彼が家中の新聞紙を切り刻んでは町中に撒き散らすからである。おかげで町は至る所に切れ端が積もり、道を歩くのも一苦労である。町の人たちは、いずれ家の新聞紙がなくなればやめるだろうと大きく構えていたのであるが、不幸なことにキル兄にゃの家は新聞屋で、切り刻む新聞紙はまだ底をつきそうにないのである。
--その町に三人の男女がやってきた。彼らはそれぞれU子さんを探しているが、話せば話すほど三人の話は食い違う。
この作品は、震災前から出場が決まっていたフェスティバルに半ば意地で参加を果たすため、震災後多くの演劇人がそうなったのと同じく、創作へのエネルギーを失った状態でそれでも絞り出すようにして創られたものです。当時私はその行為を「業(ごう)」と表現しましたが、絶望の渦中においてもなお、私たちの奥底にかろうじて残った演劇への欲望と希望がこの作品を導いてくれたのだと思います。
大信ペリカン
1975年兵庫県生まれ。大学在学中より演劇活動を始める。1996年満塁鳥王一座(現:シア・トリエ)を旗揚げ。以来、ほぼ全ての作品の作・演出を手がける。シア・トリエの活動以外にも外部作品多数。また、いわきアリオス主催のバックステージツアー「たんけんアリオス」構成演出や、戯曲ワークショップ「いわきアリオス演劇部」講師・演出など、アウトリーチ活動にも積極的に関わる。
藤枝の山田です。せっかく藤枝市に拠点を構えてまあまあ順調に公演活動を進めてきましたが、今回のコロナですっかり計画が狂ってしまいました。それでもいろいろな支援を受けて非接触型演劇の開発に余念がない毎日です。
山田裕幸
さて今回、大信ペリカンさんの「キル兄にゃとU子さん」をリーディングする貴重な機会をありがとうございます。たまたま初演をサブテレニアンで観劇しているんですよね。観劇後とぼとぼ首都高速道路の下の道を、板橋から池袋まで歩いたことも含めよく覚えています。あれからもう10年なんですね。
この作品は、いまのこの時間が「遠くの前」から「この先の未来」までずっと繋がっていることを強く意識させられます。10年前、この国はいったいどうなっちゃうんだろうかと思って、みんなで肩を寄せあったはずなのに、いまの偉い人は「コントロール下にある」などと発言し、でもそんなはずもなく、そして今はコロナという、またどうにもこうにもならない状況下にあるわけです。どこの誰だかわからない、それでそれはあなたかもしれないU子さんの幻影を追いかけつつも、未来を憂い、何も解決していない現実をしっかりと受け止め、また明日からの生活をしていこうと思うのです。
1971年、静岡県生まれ。大学進学を機に、演劇活動を本格的に始める。
1999年、劇団ユニークポイントを旗揚げし、都内の小劇場を中心に公演活動を行う。
2005年「トリガー」にてテアトロ新人戯曲賞を受賞。同年、初めての韓国公演を行った。
以後、韓国演劇人との協働制作を頻繁に行うようになる。
2005年より東京板橋区にアトリエセンティオを構え拠点としてきたが、
閉鎖をきっかけに、2018年静岡県藤枝市に白子ノ劇場を開設、拠点とする。
古市裕貴
山田愛
西山仁実
泉陽二
演出・撮影・編集 山田裕幸
世界はコロナ禍。NYの舞台は昨年三月から閉鎖され再開の見通しがつかない。この企画は「演劇」というものが今までのようにつくれない、普通が失われた中で、暗中模索しながら、人とのつながりを頼みに実現された。
ジェイムズ八重樫
前代未聞の三重災害から十年。復興。何をどう立て直せば良いのか。一概には言えなくとも、そこには「人とつながる念い」があるのでは。本作では、三人が各々人を探している。独りだったのが他の二人と出会うことにより、探していたひとの発見に近づく。新しいつながり。修復されたつながり。失われたつながり。エンディングは七夕の歌。天の川を隔てようと織姫と彦星とはつながり、人々の思いは短冊に込められていく。
日米演劇人の思いもここでつながる。
72年横浜生まれ山形育ち。91年渡米。98年からニューヨークを拠点に活動。舞台ではシェークスピア作品をはじめ、ブロードウェーやオフ・ブロードウェー作品に多数出演。テレビではHulu・Disney+配信Marvel’s Runawaysにレギュラー出演。09年「ともだちが来た」英語版公演で演出家デビュー。11年Lefty Loosey Righty Tightyで映画監督デビュー。11年国際チャリティー公演SHINSAI: Theaters for Japanを企画制作。
Ma-Yi Theater Company (芸術監督 Ralph B. Peña) 1989年、アジア系アメリカ人による演劇づくりの促進を目標として旗揚げ。Writer’s Lab(劇作家ラボ)などにより若手アジア系劇作家の育成に力を入れてきた。ラボメンバーの作品はニューヨークをはじめ米国各地の主要劇場にて多数上演されている。Ma-Yi制作のオフ・ブロードウェイ作品もそのスタイルやテーマの幅広さが広く評価されており受賞歴もObie賞、Lucille Lortel賞、Drama Desk賞など多数。
Jen Ikeda
Ann Harada
Olivia Oguma
Thom Sesma
演出・台本英訳 ジェイムズ八重樫
舞台監督 Alex Kesner
美術 Natsu Onoda Power
撮影監督 Sam Cowan
英語原訳 川田康正(Art Translators Collective)
Ma-Yiスタッフ
Sarah Hanlon Associate Producer
Jesse Jae Hoon Eisenberg Graphics/Social Media/Marketing
Johnathan Colas Intern
Mohamed Beyruti Intern
Giles Indic Studio Coordinator